幼いころ、家で食べるごちそうと言えば、明太子パスタだった。
それは上に刻んだ海苔がかけられていて、生クリームと明太子がたっぷりと使われてる贅沢な逸品だった。
家で一番大きな大皿にドーンと盛られ、お祝い事や何かのご褒美、そしてお客さんが来た時のおもてなしの料理としても活躍していた。
しかし、次第に明太子パスタが出されることはなくなり、ついには家で明太子パスタを食べることはなくなった。
これはなぜだかわからないが、私が幼いころは家計が厳しかったからかもしれない。
だから少し余裕が生まれてきてからは別のごちそうが食べられるようになったので、明太子パスタは我が家の食卓から姿を消したのだと、私は考えている。
◎ ◎
明太子パスタのことを思い出したのは、10年くらい経った後のことだった。
つまり私が大学生になってすぐの頃。
食欲旺盛な私は思い出して猛烈に明太子パスタが食べたくなった。
そこで、私は母に「昔よく作ってくれた明太子パスタが食べたい」とお願いしてみた。
意外にも母はそんなことあったっけという反応をしたので、私は母に当時のことを詳しく話した。
すると、ようやく母も思い出したのか、「ああ、そういえばよく作ってたね」と言った。
私にとっては特別だった料理が、母にとってはそうでもなかったということにかなり衝撃を受けたのを覚えている。
私の強い要望が通り、母は明太子パスタを作ってくれることになった。
しかし、母は既にそのレシピを忘れており、手元にメモなども残っていないという。
それでも母は昔の記憶を頼りになんとか作ってくれた。
私の思い出の通り、明太子と生クリームがたっぷり使われていて、きちんと刻んだ海苔もちらしてあった。
◎ ◎
それなりに大きなお皿に盛られて、登場したパスタに私の期待はMAX。
喜んで口に入れた。
が、何かが違う。
昔食べた明太子パスタのほうがおいしかった……。
もちろん、その日母が作ってくれた明太子パスタが美味しくなかったわけではない。
しかし、思い出に残るあの明太子パスタの味ではない。
「どう?あの時の味と同じ?」
と聞く母に、私は素直に思ったことを話した。
「ほとんど同じレシピのはずなんだけどなぁ」と母は困った顔をした。
その日の明太子パスタもとってもおいしかった。
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今思えば、幼いころの思い出とは本当に特別なもので、知らず知らずのうちに美化されていただけなのかもしれない。
まるで魔法のように。
それでも、私は家族で囲んだ、あの山盛りの明太子パスタが忘れられない。
「今日は明太子パスタだよ」と母から言われた時の、やったー!という気持ちが今でも蘇ってくる。
あの頃食べた明太子パスタはもう一生食べられないのかもしれない。
だけど思い出はずっと私の心の中にある。
それを大切にしていきたい。
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もし、この記事を読んでくださっている人の中に、まだ幼いお子さんがいる方がいらっしゃったら、この話を少しでも頭の片隅に残しておいてほしい。
幼いころの思い出というのは、本当に貴重だからだ。
贅沢なごちそうではなく、必要なのは少しの特別感と、たくさんの愛情。
子ども達に、家族団らんの楽しい食卓を思い出に残してあげてほしい。
もちろん、その子ども達が大人になった時に、「もう一度あのときの〇〇が食べたい!」と言われた時のために、レシピのメモを残しておくのをお忘れなく!