先日、電話先で「やることないとボケちゃいそうだから、最近は英会話の動画を見て勉強してるの〜」と元ピアノ講師の母。
還暦を過ぎても学習意欲旺盛な母に感服しながら、短大生の頃は英文科に通っていた母が、かつて海外留学を志していたというエピソードを思い出した。
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「そういえばさ、お母さんが短大生の頃、海外留学しようとしとったって言ってたやん?あれって、ピアノの留学がしたかったと?それとも英語の留学がしたかったと?」
「どっちもしたかったのよ〜!だから、当時はバイトを3つ掛け持ちして、留学費用も自分で稼いでさ〜」
「めちゃくちゃタフやん!!」
「あの頃、短大にアメリカの提携先が何箇所かあった中で、サンフランシスコの留学が決まってて。『今年の夏に留学するぞ!』って矢先にジイジ(私の祖父)が交通事故で亡くなってしまったのよね......。それにバアバ(私の祖母)が一人取り残されるのを嫌がったから、留学に行けなくなっちゃったのよ......」
そんな不遇を受けていた母の話を聞き、少々胸が痛んだ。
そして母が短大を卒業し、ブライダルの奏者をしていた時の話になり、母は続けた。
「そうそう。お母さんがブライダルの奏者として働いてた時のプロダクションの後輩に“ミカちゃん”って居たんだけど。その子、良家のお嬢様にもかかわらず、質素で謙虚で!お母さんに『先輩!色々と教えてください!』って人懐っこくて愛嬌のある良い子だったのよ〜。でね、その子、ある日プロダクションを辞めてニューヨークにピアノの留学に行っちゃって!」
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先ほど母の不遇を聞いた後だったので、運のいい“ミカちゃん”とやらに、娘の私が少々嫉妬した。濁ったあいづちを打つ娘の私はなんのその、母は話を続ける。
「そしたらさ〜!最近、お母さんの母校の同窓会で、“ミカちゃん”がスペシャルゲストとしてピアノを生演奏してたらしくて!還暦で現役のピアニストってすごくない!?」
母は自分のことのように嬉々とした様子で私に伝えた。
自分は行きたかった海外留学ができなかったのに、自分の夢を叶えた他人を心の底から喜べるって、ちゃんと「自分と他者との切り離し」をできる人なんだ、とまたまた母に感服した。
なぜか、そんな母に対して悔しくなって「お母さんだって、これから英語とピアノを活かせるっちゃない!?せっかくそんな才能あるのに。もったいないよ!」と私。
すると、母は「還暦を過ぎちゃうと雇ってくれるところってなかなかないんだけどさ〜。英会話とピアノを活かして、外国人観光客のボランティアガイドとかできないかな〜って思ってる!」と、半ば興奮気味に話していた。
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26歳のくせに「余生は何も考えずにゆったり過ごしたい」と、どこか疲れ切っている私に比べ、母はまだまだタフだ。
きっとタフさの原動力は、かつて短大生の時に叶えられなかった海外留学の夢と、それを叶えて今もなお現役ピアニストとして活躍する“ミカちゃん”が刺激になったからなのだろう。
かくいう私は、中学生の頃から憧れていた「ラジオパーソナリティ」の夢を10年越しに叶え、先日2年間出演させていただいていた番組が最終回を迎え、“燃え尽き症候群”になってしまっている。
その話をすると、母から「リサちゃんは早く夢が叶ったじゃん!」と言われたのだが。
母や“ミカちゃん”のように年齢など関係なく、タフに野心を燃やし続け、夢のその先にある景色を見るために、努力とトキメキを絶やしたくないものだ。