「あっ。ひょっとするとこの子は人見知りかな?」と思う子に会うことがたまにある。
その子はお母さんやお父さんの足元に隠れて、興味深そうに私の方をチラチラと見つめているのだが、私とはっきり目が合うとサッと隠れてしまう。
その子を見て「人見知りってかわいいな」と思いつつ、ふと「私は人見知りをする子どもだったのだろうか」と気になってしまった。

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幼い頃は多くの子が人見知りをするけれど、私は人見知りをしていた頃のことは何も覚えていない。今の私は人見知りをすることもなく、初対面の人でもすぐに友達になることができる。周りの人からは「なぜすぐに人と仲良くなれるの?」と聞かれるほど、人見知りとは縁がない。
しかし、私の母曰く、私にも「人見知り奮闘記」があったようである。

幼い頃の私は、それはそれは人見知りで、知らない人から挨拶されただけでギャーギャーする子どもだったそうだ。母のそばから離れず、母がどこかへ行こうとするとひっつき虫のようについて行ったらしい。人見知りあるあるなのかは定かではないが、知らない人には直接挨拶ができず、ずっと母の足元に隠れていたそうだ。
「足元にくっついているものだから、歩くのが大変だったのよ」と笑いながら話す母。
母にこの話を聞くまで、私は自分が人見知りをしていたことを一切知らなかった。

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母曰く、私のとてつもない「人見知り奮闘記」が起きたのは生後まもない頃だった。
父が床屋から帰ってきた時に大泣きをしていたようだ。
突然、私が大声で泣き出すので「どうして?」と母は相当焦ったようだが、髪を切った父の姿を見た時に確信したそうだ。私が父の見た目が変化したことで、知らない人だと認識して泣いていることに。
父の髪型がほんの少し変わっただけなのに、生後間もない私は「この人は私のお父さんではない!!!」と思ったらしく、そのせいで泣き喚いて大騒ぎをした。

私は見た目の変化だけで大騒ぎをするだけではなく、柔軟剤が変わっただけでも大騒ぎすることがあったそうだ。
香りが変わっただけでも「これはいつもと違う!!!この人たちはお父さんとお母さんではない!!!」と思った私は大泣きをしたらしい。ずっと泣いている私に父と母は、まだ柔軟剤を変えていなかった頃の服を持たせた。すると、みるみるうちに騒ぎが落ち着いたそうだ。

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「もうあの頃は大変だったんだから〜」とケラケラしながら母は話していたが、大変という言葉で済ませることができる母に心底驚いてしまった。
見た目の変化でもダメ…匂いが変わっただけでも大泣き…
「今まで人見知りなんてしてませんでした!」と思っていたが、実際は泣いて喚いて大騒ぎするほど、私は人見知りであった。

母よ。私にも人見知りの時代があったのですね。
薄情な私はそんなことを考えたことが今までありませんでした。
父と母よ。そんな私を愛想も尽かさずに愛してくれてありがとう。
私は人見知りもしなくなるほど大人になりました。
人見知りだった私を支えてくれてありがとう。