10数年前から中国語を勉強している。まだ子どもが小さかった頃、家族旅行で行った台湾にメロメロになった。旅先で出会った台湾の人たちはとても親切で、食べるものが美味しい。それ以来、年に数回は台湾へ行くようになり、次第に台中、台南、高雄と行き先を変えていった。

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日本語で普通に話ができていた台北とは違い、それ以外の地域では通じなかった。当時はまだスマホの翻訳機能などはなく、中国語の会話集を購入して片言の中国語を話すと「ん?」という顔をされ焦る。

「伝わらない」のはストレスだ。中国語が話せたら、もっと台湾を楽しめるはずだ!そう思いついて中国語を勉強し始めた。NHKのテレビ中国語講座や放送大学の中国語コースで学んだ。中国語スクールが主催する中国語で歌うカラオケ大会に出場したこともある。有給をとって3週間ほど台湾へ中国語を習いに短期留学した。

いろいろやってみたけど言語学習は一朝一夕には上達しない。中国語は発音が重要正しく発音しないと全く違う意味になり伝わらない。また台湾で話されている中国語と大陸とは同じようで違う。メキメキ上達するわけではなかったけれど、学習していると台湾を身近に感じる。台湾へ行く回数が増えるごとに片言でも、うまく発音できなくても中国語で話しかけた。台湾の人はちゃんと聞いてくれて、正しい発音を教えてもらったこともある。下手くそな中国語を話す私にも台湾の人たちは、ちゃんと向き合ってくれる。たまに伝わると、次もまた話したくなる。

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コロナが流行して以降、台湾へ行っていない。中国語学習にも最初ほどの熱量は無くなったのだが、今でも中国語の問題集を毎朝10分くらいかけて解いている。何問か続けて正解すると通訳者にでもなった気分になるのだけれど、テレビで中国政府の偉い人が話していてもほとんど聞き取れなくて落ち込む。何日かのサイクルで気分が上がったり下がったりを繰り返している。それでも続けられているから、やっぱり私は台湾に惚れているのだ。

テレビ欄で「台湾」の文字を見つけると心がときめく。それはまるで好きな人の名前を見つけた時のようにドキドキする。スーパーに行っても「台湾」の文字を見つけると体が反応する。パイナップルや葱抓餅やカステラ、台湾の文字を見つけるたびにカゴの中へ直行。もう身も心も台湾に持って行かれている。

私が毎日そんな様子だからか夫に「そんなに台湾が好きなら住んだら」と言われてハッとした。夫も私ほどではないが台湾好きだ。退職後、老後は子ども達に迷惑をかけないように、さっさとシニアホームへ入居しようと思っていた。でも移住すれば夜市へも行き放題、台湾の果物も好きなだけ食べられる。調べてみると日本人退職者に180日有効のマルチビザが発行される制度を見つけてしまった。いろいろと要件はあるけれど、半年間も台湾に滞在できるなんて夢のようだ。

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これから先、翻訳機能が高性能になりわざわざその地域の言語を学ぶ必要なんてなくなるのかもしれない。それでも私は自分の言葉で台湾の人たちと話をしたいと思う。これでまた中国語を頑張れる。退職後のセカンドライフの新たな目標を見つけた。歳をとるのが楽しみになった。