初めて袖を通したマスタードイエロー。今年こそは夏のリベンジを

私は子供の頃から服に興味がなかった。母親と一緒に服を見に行っても、途中で機嫌が悪くなるほど。服なんて着られたら何でも良いやんといった具合だった。
そもそも私には美的センスがない。どれとどれを組み合わせたら、綺麗に見えるかといったことを考えるのが苦手。小さい頃から柄物に柄物を合わせるのはご法度だとさんざん母親から口酸っぱく言われて来たが、それ以外の暗黙のルールはわからない。
私の中では同じ色のトップスとボトムスを合わせるのもナシだと思っていたけれど、最近、そのスタイルの人も見かけるようになった。黒に黒もアリなのかと思いながら、結局はたぶん、コーディネートの正解なんてないのではないか。黒に黒を合わせている人もきっとそれが良いと思ってそうしているんだろう。
服に無頓着な私が、なぜか無性にゲットしたい服に出会った瞬間があった。それは、昨年の3月のことだった。偶然、ネットでマスタードイエローのワンピースを見つけ、思わず一目惚れした。そもそもマスタードイエローの服を着たことがなかった。
黄色は目立つイメージがあり、それを全身に纏うにはかなり勇気がいる。けれど、そのワンピースの色もデザインもとっても可愛くて、着てみたくなった。
通販でも買うことが出来たけれど、服を買うにあたって、私は試着をしないと気が済まないので、直接お店に行くことにした。そのお店はチェーン店で、自分の家の近くにもあるけれど、そのワンピースは店舗限定販売だった。
一番近い店舗を調べたら、家から電車で30分ほど離れたところだった。その店舗が入っているビルはよく利用するので土地勘はあった。ネットで在庫があるのを確認し、早速行ってみることに。
店に到着すると、あまりにも広くて探しきれず、お店の人に尋ねることにした。さすが、都会の店舗は広さが違う。そして、お目当てのワンピースを手に取り、試着室へ。
シンプルなデザインながらも思っていたイメージ通りで可愛らしいフォルムだったので、買うことにした。こんなにも時間と労力をかけて服を買ったのは、生まれて初めてだ。いつも家の近くにあるショッピングセンターで買うことが多いので、なんだか新鮮な体験だった。
そのワンピースは半袖だから、3月に着るには少し早い。夏までしばし寝かせることに。そして、夏が来た。もうワンピースが着られるほど、十分暑い。けれど、なんだか着る勇気がない。クローゼットを開けて、ワンピースが目に入るけれど、つい違う服を選んでしまう自分がいた。そんなこんなで結局、そのワンピースを一度も着ることがないまま夏が終わってしまった。それが昨年のことである。
そして、あれよあれよという間に今年の夏がやって来た。昨年は着られずじまいだったけれど、今年はどうするか。美術館に行くにあたり、クローゼットとの睨めっこが始まった。
一度、違うワンピースを取りかけたけれど、やはり今年こそはマスタードイエローのワンピースをリベンジしたい。という訳でようやく着ることにした。全身真っ黄色で目立たないか少々気になっていたけれど、心配は無用だった。当たり前だけれど、皆、絵画に夢中で人の服なんて真剣に見ていない。レストランや百貨店にも立ち寄ったけれど、何の違和感もなかった。
着るまではかなり勇気がいったけれど、一度袖を通してしまえばなんてことなかった。帰る頃には勇気を出して着てみて良かったなと思った。まだ一度しか着られていないワンピース。せっかくだから、夏の間に何度か着たい。さて、次はどこに着ていこう。
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